政府のモニタリングポスト
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ここ数ヵ月、福島県内および福島隣県に設置された放射線モニタリングポストの精度について活発な議論が交わされていますが、セーフキャストは、この件に関して2012年7月の時点で既にブログ記事を執筆しています。
“改善された”モニタリングポストで 放射線・線量レベルをごまかす東京電力(TEPCO)
約2700基のモニタリングポスト(現時点では675基が確認済み)が設置されています。見た目がスター・ウォーズのR2D2に似ていることから、セーフキャストのメンバー間では親しみをこめて「ドロイド」と呼んでいます(上記写真を参照)。電源は装備された太陽光パネルと内蔵バッテリーから供給されます。文部科学省を介し、政府は巨額を投資して(正確な金額は定かではありませんが)モニタリングポストを設置し、更に資金を投入して空間放射線量測定値が閲覧できる専用ウェブサイトを作りました。
リンク:文部科学省 リアルタイム線量測定システム 環境放射能水準調査結果のページへ
このウェブサイト、見た目はなかなかの出来です。サイト利用者は知りたい県をクリックし、更に特定地区をクリックすると、各地方自治体を選べるようになっています。スクロール・リストが右側に現れるので、特定のモニタリングポストを選べば、その地点の測定線量値を確認することができます。(例えば、福島県郡山市の場合、393基のモニタリングポストがスクローリング・リストに表示されます。) ズームイン、ズームアウト、また、スクロールもできるGoogle Fusionマップも現れ、各モニタリングポストが丸い彩色点で表示されます。この青い点をクリックすれば、現時点での各地点の放射線量を確かめることができます。線量は10分ごとに更新されており、1ヶ月分のデータをまとめてダウンロードすることもできます。このようなデータを文部科学省(以下、文科相)が提供してくれるというのは、ありがたいことです。
その一方で、このシステムは呆れてしまうぐらい問題を抱えています。文部科学省のモニタリングポスト測定値とセーフキャストの測定値の比較調査をしていて分かったのは、このシステムでは、1回のサーチでは福島県内のごく限られた1地点の情報しか分からないという点です。ある特定の場所の情報を捜し出すにはかなりの時間がかかってしまい、イライラします。累積時間によるデータ推移を知りたくても、過去のデータにさかのぼれません。また、ダウンロードできるデータには様々な制約がついていたり、効率よく探したい場所の測定値を探し出すのが難しい作りになっているのです。そうなのです、文科省はこのシステムを 「出来るだけ使いにくいように」(ADAP:As Difficult As Possible)作っているのです。
他の市民団体、「市民と科学者の内部被ばく問題研究会」もこの問題を更に掘り下げ、2012年10月に調査結果を発表しています。
リンク::市民と科学者の内部被曝問題研究会
リンク:朝日新聞に掲載された市民と「科学者の内部被ばく問題研究会」の調査結果に関する記事
内部被ばく問題研究会の発表によると、この団体の測定値は、モニタリングポストの値よりも10~30%高かったそうで、原因はモニタリングポスト装置脇の鉛のバッテリーが遮蔽効果をもたらし、放射線量が低く測定されている可能性があることを指摘しました。グラフや計算式は公開したものの、その元となっている生データは公表しませんでした。内部被ばく問題研究会は、政府が意図的に測定値を歪めていると批難しました。
一方、グリーンピースは定期的に放射能測定調査を実施し、モニタリングポストの精度を確認していますが、ほとんどの場合、測定値は正確ではなかったと結論付けています。
リンク:福島市内のモニタリングポスト 信頼性に疑問 (グリーンピース)
リンク:偽装された希望 – 福島県内の放射線モニタリング(グリーンピース)
グリーンピースはかなり体系的な調査方法を取り入れ、信頼性の高いガンマ線スペクトロメーター(Georadis RT-30)を使って、10センチ、50センチ、1メートルの高さから、そして5メートル、10メートル、15または20メートル離れた地点で放射線量を計測し、福島市内に設置された40基を調査を実施しました。
グリーンピースのモニタリング・ステーション調査結果データ (pdf)
グリーンピースは、「調査した40カ所のモニタリングポストのうち、75%に該当する30カ所が周辺の放射線量より低く表示されていました。モニタリングポストから半径25m以内の放射線量を計測した結果、モニタリングポストの表示より4.5倍も高い放射線量を計測した場所もあります」とウェブ上で報告しています。
グリーンピースのスプレッドシート・データを見て気付いたのですが、グリーンピースが各モニタリングポスト脇、かつ地面から1メートルの高さで測定した線量よりも、モニタリングポストによる測定値の方が高く記録されています。この点に関してはまだ良しとしましょう。問題なのは、モニタリングポストの測定値が周辺地区の汚染状態を正確に映し出しておらず、場合によっては半分以下のレベルに下方報告されてしまっているという点です。後述しますが、モニタリング・サンプルが特定地域の平均値を示すためのものであるなら、どの近辺の放射線量が高めなのか、また低めの地域はどこなのかまで探し出すべきだと思うのです。そうすれば、モニタリングポストが特に数値の高いところ(または低いところ)に設置されているのかどうか推測できます。
そうは言っても、本当の線量を知る唯一の方法は、体系立てた方法でモニタリングポストを中心にいろんな方向に向かって測定していくしかないのです。上記で触れたグリーンピースのエクセルシート上のデータを見ると、2、3カ所ではそういう測り方をしたようですし、その測定値を結論付けに使っているようです。675か所に設置されたモニタリングポストを調査し、周辺地域をマップ化してどれが「放射線量が低めのスポット」なのかつきとめるようとすれば、極端に費用も手間もかかります。しかし、ここで大切なのは、一般の人々が測定値をどう把握しているのかという部分です。仮にセンサー機器の精度が高くても、数メートル離れただけで数値が全く変わってしまうという事実を知らないままモニタリングポストの測定値を見たり、文科省のマップを見ていたら、かなりの人がその地域の放射線レベルについて誤った印象を持ってしまいます。セーフキャストでは、モニタリングポストが往々にして「放射線量の低い場所」に設置されている事実を示すことができますが、政府はこういった状況に対して十分な説明をしていません。これでは一般市民は、モニタリングポストは周辺地域よりもきっと低めに放射線量を測定しているのだろうな、納得してしまうでしょう。
我々もモニタリングポストの調査を行い、実際にどのような数値が表示されるのか確認してきました。
似たようなモニタリングポストを製造しているのは、NEC(トップ・ページの写真)、日立アロカメディカル、富士電気(2機種製造しています)、そしてライノテック工業の4社です。全てソーラーパワーで電源が供給され、インターネットに接続されています。内蔵されている検知器には高性能のシンチレーターが使われているようです。セーフキャストでは、実際に数十以上のモニタリングポストを確認しましたが、表示されている数値が我々のガイガーカウンター測定値と食い違っていることも多々ありました。その一方で、セーフキャストのRadEyeシンチレーターで測定した線量値はモニタリングポストの数値と近い数値を示していました。測定値が毎時0.1マイクロシーベルト未満の場合、測定値のばらつきが大きくなることは確認されています。セーフキャストはライノテック工業製モニタリンクポスト12基ほど調べましたが、そのうちきちんと稼働していたのはたった1基だけでした。たまたまプログラムが意図的に稼働停止していたのかもしれませんが、製造工程での欠陥が見過ごされてしまっていたのかもしれませんし、ディスプレイ部分の防水に問題があってメインテナンスが難しいといった問題があったのかもしれません(下の写真参照)。
最新情報: 郡山のセーフキャストボランティアがライノテック社製ドロイドについてさらなる情報を提供してくれました。この製品はアルファ通信社により製造されたのですが、最初の契約では3億7千万円で600台の受注でした。アルファ社が設置した後、文科省が同社との契約を切り、加えてさらに2100台をNECと富士電機から注文したと発表しました。文科省は、ウェブサイト上で、この理由を「(同社が)契約上の納入期限後、受注業者による技術仕様の達成の見通しが立たないまま、1か月を経過してもなお納品が履行できない状態のため」と説明しています。
多くのブロガー達がこの件についてコメントしており、文科省がアルファ通信がどのスペックを満たしていなかったのか、どのように装置がテストされていたかが明確でないと指摘しています。
Geiger Counter Blog report about Alpha Tsushin contract problems (Japanese)
MEXT notification of cancellation of Alpha Tsushin’s contract (Japanese)
では、除染効果の方はどうなっているのでしょうか。何百基ものモニタリングポストが公園や学校、遊び場などに設置されていますが、こういった場所は子どもたちが安心して使えるよう意図的にポスト設置以前に除染してあります。また、表面の土の入れ替えが行われていますが、これは業者間では一般的に行われる除染方法ですし、放射線測定値を意図的に下げようとしたわけではないかもしれません。
しかし、我々はモニタリングポスト周辺の路面が新たにきれいに修繕されているケースを実際に何度も確認しているので、整地した理由を正当づけようとするのは難しいことのように思います。例えば、福島市内で最近見かけたモニタリングポストでは、福島駅近くの人通りの多いところではなく、駅からある程度離れた目立たない場所に置かれていました。駅周辺にある唯一の小さな緑地です。これはつまり、コンクリートと土壌の地面とでは、放射性物質の吸収力が違ってくるので、駅前よりはこの緑地公園の放射線量率の方が低めに出るということです。モニタリングポスト周辺小道のアスファルトは、真新しく、汚染されていないものに差し替えられています。セーフキャストが公園の古いアスファルト路面を測定した際の放射線量は、4~5万ベクレル/平方メートルだったのに対し、ポスト前の新しいアスファルト路面では、線量はほぼゼロ(背景放射線量を計測して機器を調整した後)でした。モニタリングポストに表示された線量率はセーフキャストのガイガーカウンター(bGeigie nano:bガイギー・ナノ)の数値に近く、毎時0.28 マイクロシーベルトでした。一方、セーフキャストによる福島駅周辺での測定線量率は毎時0.3~0.5マイクロシーベルトでした。
同様の事例を福島大学でも確認しました。同校の駐車場で測定された放射線量率は毎時0.4マイクロシーベルト前後でした。それに対して草むらに設置されたモニタリングポストの数値は毎時0.23マイクロシーベルトでした。
複数の市民団体からの批判を受け、政府は2012年11月にモニタリングポストのバッテリーが放射線を遮蔽し、検出値が過小表示されていたことを認め、バッテリーの位置を移動させる工事を行うと発表しましたが、この改修費は約1億5000万円にのぼると言われています。この工事を行えば、一割低く放射線量が計測されてしまう問題は解決されると期待されていますが、実際にはそれ以上の問題を抱えており、そう簡単には解決できないのではないかもしれません。結局のところ、一般市民にとってできるだけ「分かりやすく、使いやすい」ものを作りたいのか、それともユーザーにとっての使いやすさなど気にもせず、できるだけ「使いづらい」ものを作りたいのか、といった議論に戻ってしまうのです。モニタリングポスト発注の際の仕様書内容やユーザビィティはどうあるべきかといったことが、きちんと議論されないまま入札がきまってしまったのではないか、また、情報提供の場のオンライン・システムも、市民がどのような情報を、なぜ必要としているか、どういった形で情報提供されるのがベストなのか、また、誰が監督すべきかといったことが十分に配慮されないままシステムが作られてしまったように思うのです。その代わりに、おそらく官僚たちがモニタリングポスト製造会社から情報をかき集めて必要最低限レベルのスペックをもとに可搬型モニタリングポスト整備業務仕様書を作成し、発注し、入札が入ればどの会社であろうと受注させたかのようにもみえます。そして実際の設置作業は、放射線量測定などには興味も関心もない下請け会社に任せてしまったのです。また、ウェブサイト作成も外注し、一見したところよくできているようですが、実際には非常に使いづらく、誤解を招きかねないほど分かりにくいサイトになっています。この件で、多くの関係者が私腹を肥やしたのではないかと思われます。
モニタリングポストの設置場所やポスト周辺部の除染を正当化するうわさをいろいろと耳にします。例えば、除染作業が完了したときにどれぐらい放射線値が下がったかを確認するためだとか、背景放射線量を低くしておくことで急に放射線量が増加してもすぐに気づけるようにしておくために除染をしたのだといった内容のものです。
また、計画性がないまま設置されてしまったかのようなモニタリングポストをいくつも目にしてしまうと、放射線量を欺いて測定しようとしていたのではないか、もしくは機器の設置がうまく進まなかったからそうなってしまっただけなのだろうか、と勘繰りたくもなってしまうのです。その一方で、実際には、政府は市民を欺くようなことなんてしない、政府側は全く知らなかっただけだったのでは、とも言い切れないのです。もちろん設置されたモニタリングポストはある程度の目安になるので役に立ってくれています。でも、測定された数値は、あくまでもその設置された地点のみ有効な放射線量値であって、その地区の放射線レベルを正確に平均値化したものではないということをはっきりと説明すべきです。技術面の知識がある人であればきっとお気づきのことかと思いますが、「このモニタリング数値はポストの周りの極狭い周辺のみの測定値です」と明記したプレートを立て掛けるべきですし、そのエリアがどれくらいすでに除染されたか、また除染作業はいつ行われたかといった情報もモニタリングポストのところに公開すべきです。ウェブサイトでも同様の情報を明確に説明すべきでしょう。
実際に、千葉県の柏市などの町では全ての公園や遊び場、学校や公共の場を定期的に放射線量測定し、時間推移に合わせて数値の変化が分かるようにオンラインでデータを公開しています。柏市の公園や遊び場では、いろいろな場所で何度も放射線測定を行い、放射線マップにして公園の入り口に張り出しています。オンラインでも確認することができます。非常に簡単な方法ですが、市民に伝えるには効果的ですし、分かりやすいです。この例から分かるのは、責任者がいる状況下で、現場での放射線量調査が定期的に行われ、測定値の記録も継続しているということです。
依然として必要なのは、特定の選ばれた場所だけの線量を表示するのではなく、広範囲にわたる地域を代表する放射線量測定値を表示しつつも、実際の汚染詳細状況を反映する公的なモニタリングシステムなのです。では、具体的にどうすればいいのか尋ねられた場合、セーフキャストとしては以下のことを提案します。
— モニタリングポスト設置周辺の地面の扱いには一貫性を持たせる
— 各モニタリングポストの性能や(放射線量測定に関する)限界などの情報をきちんと表示する
— モニタリングポストの半径100メートル周辺地域を定期的に測定して作成した放射線マップを機器に貼る
— 各モニタリングポストに関する問い合わせ連絡先(電話番号、eメールアドレス、ホームページアドレス等)を明記する
— ホットスポットの場所や広範囲をカバーする平均放射線量情報を含んだ、もう少し使い勝手の良いウェブサイトを作成する。また、他団体のデータセット(例えば、セーフキャストのデータセット)と比較できるよう、モニタリングポストによって集計された全てのデータセットを一般公開する
最後に、我々は、近隣住民側にもモニタリングポストを「所有している」という認識が必要になってくるのではと思っています。つまり、長期にわたって責任を持ち、見守りつつも異変は見過ごさず、周辺地域の測定値と比較したり、システムの管理者とも連絡を取り合ったりする必要が出てくるのではないでしょうか。こういったことを可能にするには、当然、モニタリングポスト運営サイドの人たちの迅速な対応が必要になりますが、残念ながら今のところそういったことはなされていないようです。
下の写真はセーフキャストのお気に入りモニタリングポストです。田村町の学校給食調理室横に設置されており、他のモニタリングポストとは異なるタイプのものです。
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翻訳:Akiko Henmi