日本の緊急事態に関する解説

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2020年4月8日、アズビー・ブラウンによって公開

昨日(4月7日)、ようやく安部総理大臣によって、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡を対象とした緊急事態宣言が出され、日本のCOVID-19パンデミックへの対応は新たな局面に入りました。多くの人が指摘するように、この新たな「封鎖(ロックダウン)」は諸外国で実施されているような法的強制力を持ったものではなく、自宅待機の要請に従わなくても罰則が課せられることはありません。

現在の日本の法制度では、そのような強制的な指令を施行することはほぼ不可能なのです(第二次世界大戦前、および戦時中に国全体が非常に無意味な自己犠牲を強いられたからなのですが)。その代わり、政府は来月に向けて、これまでの要請よりも広範囲にわたる社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンス)を自主的にとるよう求めています。スーパーマーケット、コンビニエンスストア、診療所や病院、ホテル、製造業などの「必要不可欠」と見なされるサービス業は、引き続き営業するように求めていますが、バーやクラブ、ライブハウス、カラオケなど大人数が集まる場所は避け、外食しなければならない場合は大人数での利用を避けるよう、引き続き呼び掛けています。奇しくも、公衆浴場は営業を継続するよう求められているようです。都内の映画館、博物館、図書館、デパートなどの多くの公共施設は、先に受けたソーシャル・ディスタンスの要請に応じて、すでに一時的に閉鎖されており、今後も営業停止を継続するよう求められるかもしれません。そうは言っても、誰かに何かを強制することはできず、また、要請を拒否することもできるのが現状です。現在のところ、この命令が適用されるのは国内43都道府県のうち7県(正確には1都1府5県)にのみ限定されています。憂慮すべきことに、緊急規制を回避するために東京から多くの人が圏外に脱出したとの報告も多数受けています。中国やイタリアなどでは、部分的な閉鎖を行ったものの旅行者を効率的に監視しなかったため、感染者たちが国内外に新たな集団感染の種を拡散させる結果となり、事態を計り知れないほど悪化させました。

新たな非常事態宣言に含まれる7つの都道府県。出典:NHK

安倍総理大臣は、「私たち全員が努力して人と人との接触を70%、できれば80%減らすようにすれば、感染症の増加は2週間後にピークを迎え、その後減少に転じるだろう」と言及しています。この発言内容に関しては不確かな部分も多く、特に自主的に要請に応えるというのは、今までのところ日本でもちらほら見受けられました。数週間前に、もっと強力で拘束力のある措置が講じられ、より強制力のあるメッセージを訴えてくれていたならば、と私たちは思うのです。

Agence France Presseの編集者リチャード・カーター氏がツイートしました:

一方、2011年3月の大震災後、日本人は必要なことと判断すれば、不便な緊急措置であっても容易に協力してきました。 2011年には、店舗の照明を半減させたり、駅やビルの外壁のイルミネーション広告を消し、エスカレーターを停止させたり、家庭での消費電力を抑えたりなど、全国的に広がった自主的な省エネ(節電)のおかげで、全体の電力消費量は約2割減少しました。自主規制(自粛)は、お祝いごと、その他の大規模な懇親会、一般的な贅沢などを自粛するよう求められ、人々はそれに従ったのです。

これはある意味、緩やかな犠牲が求められたという最近の前例と言えるでしょう。数日前、TBSが発表した世論調査の結果によると、約80%が緊急宣言の発令に賛成していました。しかし、実際に人々は従うのでしょうか? 一週間後には分かることですが、政府は足固めに必要な準備を整えていないようですし、国民とのコミュニケーションも図れていないように思います。これには追加として、無料託児所の提供や自宅待機しなければならない従業員とその雇用者への助成金、オンラインでの書類提出を困難にする官僚的規制の緩和などが含まれます。多くの企業、大学などでは、今でも大半の従業員は、紙の書類に印鑑を押すために現場に立ち会う必要があります。現在、健康への危機が懸念される中、このような行為は野蛮とも言えます。諸々の関連支援策について話し合いが持たれ、約束されていますが、どれも実施されるに至っていません。先週の日曜日、シンガポール政府は、感染症の「第二の波」(現在、香港でも経験していること)に対応するため、非常に強力な拘束力のある対策を発表しまました。これらのガイドラインは、メディアだけでなく、政府による広報チャネルを使って明確に伝えられており、ベストプラクティスと捉えるべきでしょう。

4月6日現在の日本の症例データ。出典:NHK

3月下旬以降、東京を筆頭に日本全体でCOVID-19の感染者数は明らかに増加しています。これは、3週間前にさかのぼりますが、中途半端な形でソーシャル・ディスタンスを公式に要請したにもかかわらず、お花見で大勢の人が公園に集まり、お互いに感染したのが原因ではないかと大かた意見が一致しています。重要な点が不明確なままで、中央政府によるコミュニケーションへの取り組みは依然としてお粗末ですが、日本でのデータの公開状況はここ数週間で全体的に改善しています。東京都の多言語版COVID-19 ウェブサイトは、政府が提供してきたものよりもはるかに明確で有益な公式情報源となっています。今日現在(4月8日)、東京都の陽性者数は1196人で、2週間前から急激な増加傾向にあり、先週末には1日あたり100人を超える新規感染が発生しました。その後2日間でやや減少し、今日は144例に達しています。現在、全国で累積陽性者数が4480人を超えました。4月6日の感染者数は241人でしたが、4月3日以降は、連日300人を超える感染者数が報告されています。非常によく運営されている独立型のバイリンガルサイト、Japan COVID-19 Coronavirus Tracker,(日本新型コロナウィルス・トラッカー)は、都道府県ごとの詳細なオープンデータベースを提供しており、日本での検査済み症例数データに関して信頼できる情報源になっています。

出典:Japan COVID-19 Coronavirus Tracker (日本新型コロナウィルス・ストラッカー)

以前の記事で述べたように、多くの人々は日本での大規模な検査が行われていないために、COVID-19の実際の症例数や感染率が著しく過小評価されていると結論づけています。昨日のワシントン・ポスト紙に引用されていた、ロンドンのキングスカレッジ・ポピュレーションヘルス研究所所長の渋谷健司教授によると、「遅すぎる・・・。東京はすでに爆発的な感染者数増加の段階に入っており、医療崩壊を止めるためには一日も早く首都封鎖を実施しなければならない」と語っています。渋谷教授は、この1週間での急激な感染者数の増加は、日本の限られた検査戦略が失敗していたことを示す明らかな証拠であり、検査と発見の規模が大きくなればなるほど、そのことがより明白になるとの見解を示しています。

日本での検査数は増加していますが、発生曲線の平坦化に成功したどの国よりもはるかに遅れをとっています。数日前、首相は検査能力を1日あたり7,500人から2万人に拡大すると発表しましたが、いつ頃から実施可能となるかに関しては言及しませんでした。4月7日現在、日本では合計5万5311人が検査を受けていますが、ほぼ毎日検査が実施されていることを考慮すると、現在公表されている1日7,500人の検査能力の半分以下しかないことになります。これとは対照的に、ドイツでは週に50万人が検査を受けています。

日本では他の国と同様、肺炎のような呼吸不全による死亡者全員に対し検査を実施していないため、COVID-19の症例数が過少報告されている可能性があります。逆に、すべての死亡症例がCOVID-19に起因するという分類法は、世界的に広く行われているのですが、これはCOVID-19に起因する死の過大評価につながりうるとして批判されています。しかし、多くの国では、通常の季節性インフルエンザに罹患している間に死亡した人々は、健康上、他に問題があったとしても、インフルエンザによる死亡として記録されていることが指摘されています。特に問題視されるような慣行ではないのかもしれませんが、感染症例の重症度を追跡する上で、この意味合いを念頭に入れておく必要があります。全体として、パンデミックの規模や拡大を過小評価することの方が、過大評価することよりも公衆衛生上のリスクははるかに大きいことは明らかです。

日本のCOVID-19症例の重症度内訳。出典:NHK

日本政府や医療専門家の間では、現在のペースで重症患者数が増え続けると、集中治療室の病床が十分に確保できなくなるのではないかという深刻な懸念が上がってきています。人口10万人当たりのICU病床数の割合は、他の多くの先進国に比べてはるかに低いからです(日本は10万人当たり5床、イタリアは12床、ドイツは約30床)。この単独サイトでは、各都道府県のICUベッドの空き状況の現状を示しています。東京都を含む、少なくとも5つの都道府県では、COVID-19の症例数はすでにICU病床数を上回っています。 NHKによると、COVID-19感染者のうち、ICUでの治療が必要なほど重症化した症例は4%程度にとどまっていますが、重症化した症例がICUのベッド数を上回る可能性が出てきているとのことです。

これを受けて、政府は軽症患者が利用できるよう、東京に約10,000室、関西に3,000室、東京オリンピック村に800室を提供するとの協力をホテルから得たと報告されています。昨日から東京都中央区のホテルに患者の移動が始まりました。 3月24日にお伝えしたように、それまでCOVID-19の数値が比較的低く抑えられていたのは、マスク着用や手洗いなど日本人の様々な生活習慣のおかげだと多くの人が信じていますが、単純に運も一役買っていたのではないかと感じます。では、今後どうなるのでしょうか? 日本は引き続き幸運に恵まれ続けるかもしれません。現在の陽性患者の急増は異常だと分かってくるかもしれないですし、新たな自主的措置は、感染者急増の芽を摘み取るのに十分なほど受け入れられ、広がっていくかもしれません。しかしながら、現在の緊急事態宣言発表に影響を与えたとされる最近の調査では、無視してはならない悲惨な最悪のシナリオも想定されています。自主的措置を要請しても、自宅からの外出を60%以上を削減できなかった場合、ICUのキャパシティ不足によって、4月26日頃に医療システムが崩壊し、50万人が死亡すると著者は結論付けていました。 その一方で、3月2日以降の学校閉鎖により、子どもの接触頻度が40%減少し、2月27日以降の自主的なイベント中止により、大人の接触頻度が50%減少したことを示す未発表の研究に言及しており、外出を60%を減少させることができると期待しています。

あらゆる研究に言えることですが、全てが正確ということはありえませんし、不確実性が内在する中国のデータを基にしているので、このモデルはあくまでも基本的な想定をしているだけに過ぎません。首相は来月から1ヶ月間、ソーシャル・ディスタンスを7、8割減らすように国民に要請しています。しかし、企業が経済的苦境に陥ることなく、従業員が自宅に留まることを認める明確な補償がなければ、これらの目標を達成するのは難しいと言えるでしょう。世界の他の地域で実施されているように、日本でも数週間前から、もっと強制力、拘束力のある措置を講じて、より強力なメッセージを投げかけていたならば、もう少し効果をあげることができたのではないでしょうか。今のところ、私たちは運に頼り過ぎてしまっているようです。

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