IAEAでセーフキャスティング

In ニュース, 主要記事, 放射線 by azby

1日目、2014年2月16日

ジョーと私、アズビーは、今週月曜日にウィーンで始まる国際原子力機関(IAEA)の専門家会議に出席します。

この国際会議に関する情報(英語のみ)は、以下のリンクから見ることができます。
福島第一原子力発電所事故(IEM6)後の放射線防護に関するIAEA国際専門家会議、2014年2月17日〜21日、オーストリア、ウィーンにて

私たちが会議に参加すべきかどうか、かなり議論を重ねてきたのですが、それには様々な理由がありました。セーフキャストがこの会議に参加することで、何ら建設的な対話を交わさなくとも、IAEAがどの団体に対しても「受容的」で「公平」であるかのように見えてしまう可能性があるのではないかと考えたからです。また、私たちが会議への参加に同意することで、私たちセーフキャストの独立性が危うくなると人々に思われることがあれば、会議への参加は私たちにとって逆効果になりうることも認識していました。
しかし、私たちに連絡をくれたIAEAの職員とのやりとりは驚くほど率直で、IAEA内部の職員の多くがセーフキャストの実施してきた活動に深い興味を持っていることを知ったので、セーフキャストの方法論や調査結果を知らないIAEAの専門家たちがいれば、セーフキャストから学び得ることがあるのではないか、という印象を受けたのです。IAEAの職員も、セーフキャストが批判的なことを沢山述べてくれるのでは期待していたようでした。その一方で、会議の主催者は、私たちセーフキャストを招聘することで、主催者自身、批判の矢面に立たされることにもなったのです。というのも、私たちは原子力の分野では正当な専門家として「認められていない」からです。

会議はあと数時間のうちに始まります。セーフキャストがこの会議に参加したからと言って、何かが速やかに、一気に変わるとは思っていません。しかし、これは高レベルの専門家達に自分たちの批判的な見解を聞いてもらえる貴重な機会であり、こうして参加すれば、独立した第三者的団体の意見も受け入れられたという前例のないケースになると思うのです。

Vienna as a whole has very normal levels of ambient radioactivity, but the granite base of the statue of Goethe is a bit hot.
[ウィーンは全域に渡って環境放射能は極めて正常なレベルですが、花こう岩で作られたゲーテ像の土台部分の放射線量値は若干高めです。]

2014年2月17日 第2日目

会議は午後から始まりました。登録手続では、かなり厳重なセキュリティを通るようになっており、その後、写真付きのIDバッジが渡されるようになっていました。今日のプレゼンテーションの大半は、これまでの政府や規制機関の活動概要の説明、環境、除染、健康等の現状について、人々に最新情報を伝えることを主目的としていました。原子力規制委員会(NRA)、日本原子力研究開発機構(JAEA)、そして放射線医学総合研究所(NIRS)から来た日本の代表者たちによる発表もありましたが、すべて英語で行われたので、大変だと感じた人もいたかもしれません。今までの成り行きを間近で追い続けてきた私たちには、彼らのこれまでの展開の基本的な概要に関するプレゼンテーションを聞いても、目新しい発見は特にありませんでした。

第二部のセッションでは、世界保健機関(WHO)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際連合食糧農業機関(FAO)、経済開発協力機構(OECD)の代表者による発表がありました。 WHO の Emile van Deventer氏と、UNSCEAR の Malcolm Crick氏は、各々が所属する機関がリリースした報告書(あるいは間もなく発表する予定)について概要を説明し、長時間を掛けて、どのようにして WHO や UNSCEAR が外部の人たちと関わりながらも任務を遂行し、内部で情報収集するのか説明していました。目新しい内容の発表はなく、WHO の福島に関する追加的な報告書の発表もありませんでした。UNSCEAR による長いこと先送りになっていた健康の影響に関する報告書は、最終的に2014年の4月2日に公表されるとのこと、また、IAEA による報告書は2014年度末にまとめられ、2015年半ばに公表されることが明らかになりました。

繰り返しになりますが、その発表内容のほとんどは組織についてであったり、回顧的なものであり、重要な部分はほんの少ししか明らかにされませんでした。国際原子力機関(IAEA)の Miroslav Pinak氏は自らのプレゼンテーションで、IAEA がしきい値無し直線(LNT)仮説(モデル)の原則を使っており、わずかな被ばくであっても健康面にリスクがあると明確に述べていました。発表後に、私は UNSCEAR の Malcolm Crick氏に、これらの報告書が実際に集団線量推定値を支持すると捉えていいのか、また、線量・線量率効果係数(DDREF、ここでは、DDREFの1を採用している)を放棄すると見ていいのかと尋ねると、彼はその二点について、「そうだ」と明言しました。また、何人かの発表者は、全体として線量評価、リスク評価法が一般市民にとって非常に紛らわしく分かりづらくなっており、積極的な見直し、あるいは何か他のものと置き換えられる必要があるのではというコンセンサスが大きくなっていることに触れていました。私たちがこういった問題点をはっきりと認識できるようになれば、事態解決への大きな第一歩に繋がるのでは、と思っています。

こういった会議では、参加者同士が既に長年の知り合いであることが多く、そのため、あるクラブ会員のような排他的な雰囲気が若干感じられました。同時に、そういった雰囲気であるからこそ、外交的ではありますが、率直な意見交換が可能でもあるのです。一方で、複数の発表者が、福島の事故後、(人々への放射線量を最小化するという意味で)放射線防護に関しては功を奏している一方で、事故を未然に防ぐための規制防護は情けないほどに失敗してきたと話していました。その上、事故関係者、当事者間による連絡などの意思疎通がうまく取れていないことも複数の発表者によって示唆されました。もちろんこれは、私たちセーフキャストのプレゼンテーションにとって明らかな推進力にも繋がります。自画自賛はさておき、誰一人として、(原発事故後の)風向きがほとんど海方面だったので日本人は本当にラッキーだった、そして、だからこそ防御法が何であれ、良い結果に繋がったのだ、などと言う人はいなかったように記憶しています。

この日は、歓迎会で締めくくられ、大勢の人々と言葉を交わす機会に恵まれました。Malcolm Crick氏は、UNSCEAR内にもセーフキャストのファンが多くいること、そして彼らは公式データを照合検査するために、セーフキャストのデータセットが便利であることに気付いている、と私たちに話してくれました。甲状腺疫学者、Peter Jacob教授と話をする機会もありました。彼は、どのぐらい多くの甲状腺癌の症例が最終的に福島県で発見されることになりそうかを推測し、その解釈の仕方を説明した論文を最近発表しています。
私たちは伊達市の仁志田昇司市長にもお会いすることが出来ました。仁志田市長は、個人線量計とホールボディーカウンター(WBC)スクリーニングを通して、伊達市民全員の線量測定をとても積極的に時宜にかなった形で実施した方です。仁志田市長も他の日本人出席者も、ジョーと私が日本語を話すことに驚いていました。このような会議で日本語を話す人に出会うというのは、ほとんど皆無なのでしょう。

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The SAFECAST Delegation to the IEM6 Experts' Meeting

[IEM6国際専門家会議に参加したSAFECASTの代表団]

Azby describes the bGeigie Nano to the assembled representatives.

[アズビーによる会議出席者へのbGeigie Nanoの説明場面]

2014年2月18日、第3日目

私たちのプレゼンテーションは午後でしたが、我々の期待を遥かにしのぐ好反応を得ることができました。特に質疑応答の部分などはビデオで録画できれば良かったのですが、挑発するような形になった部分もあったようで、各国からの専門家から手厳しいコメントを受けることになりました。とりわけ、「公的に認定されていない機器で集めたデータをセーフキャストが公表するというのが如何なものか」という批判を受けましたが、最終的にはノルウェーから参加していた専門家のAstrid Liland女史が、以下のように発言し、セーフキャストへの熱狂的な支持を表明してくれたのです。

「みなさんは詳細にこだわってばかりで全体像を見失いかけています。セーフキャストは創造的で革新的人たちで、自分たちで効果的な解決法を開拓してきた人たちなんです。皆さんの国で、もし同様の事故が起きても、彼らみたいな人を見つけることができたら、それはすごくラッキーなことなんですよ。実際に今すぐ、自分でこういう人たちを探してみてごらんなさい!」

この発言の後、拍手喝さいが一斉に沸き起こりました。会場内のコンセンサスがシフトしたのが感じられた瞬間でした。その後、私たちは皆に取り囲まれ、30分以上身動きできない状態となりました。誰もが、私たちとの友好を求めたのです。Abel Gozales氏の場合は、助成金獲得に向けて力添えしたいと言ってくれましたし、DOEも新たに導入する緊急情報システムにセーフキャストのデータ・インプットを反映する、という意向を伝えてくれました。IRSNからも、あるプロジェクトに協力してほしいと頼まれたのです。そして、NRCとは、災害計画に市民によるモニタリングをどのような形で受け入れていくのがベストなのか、ということについて話し合いました。

私が実際にプレゼンテーションを行ったわけですが、最初にエイドリアン・ストーリーが製作した素晴らしい3分ビデオを見せたので、単にスライドだけで説明するよりも、我々がどういった人なのか、なぜこういうことをしているのかというストーリーをより上手に伝えることが出来たのです。スライドはかなりの枚数になりましたが、セーフキャストとしての組織、bGeigie、我々の地図の裏に意図された情報デザインについての考え方、道路ごとのプログラム、そして最終的には公的な政府発表の地図よりも、いかにより詳細で広範囲に渡っているかについても説明しました。
質疑応答の場面では、私たちのセッションには9名の発表者がいたにもかかわらず、10個挙がった質問のうちの8つはセーフキャストに向けられたものでした。ほとんどの質問は品質管理に関するもので、これに関してはセーフキャストのポリシーと照らし合わせながら説明しました。

まず、どのように放射線の測定方法を市民に教えているか、アップロードされたデータがどのように管理者によってチェックされるか、そして、どのようにセーフキャストの文化を築き、見識の高いコミュニティーを築いているか、また、人々を巻き込みながら各自が責任を持って自分たちの環境をモニターすることが如何に大切と思っているかを話しました。
技術的な詳細部に関してはジョーが担当し、何度も彼が丁寧な解説をしていました。
「安全である」か「安全ではない」かという視点に関する質問で、どのようにしてセーフキャストが自分たちの生のデータを解釈しているのか尋ねられたのですが、私たちは何が安全なのか、ということに関しては人々には言わないようにしていること、各自の意思決定の手助けになる情報を提供し続けているのだと答えました。

また、フェイスブックやツイッター、そして意見交換盛んなGoogle上のグループなどのような多数のソーシャルメディアを利用することで人々が議論を交わし、どう解釈づけていくかを議論している、とも答えました。
あるカメルーンからの代表者から、「あなたのグループにはハッカーたちが含まれていることにプレゼンテーションを聞いていて気付きました。その正当性はどうなんですか?」と尋ねられました。そこで、私たちが言う「ハッカー」は銀行を襲撃しようとする類いのものではないことに触れ、ハッカーの本来の考え方、思考法がどういったものなのかを説明し、それがイノベーションのエンジンであること、どうしてそのマインドがセーフキャストにとって大切なのか解説しました。
他の参加者で、テゥフ ラインラント ジャパン株式会社(TUV Rheinland)に勤めているJens Uwe-Schmollack氏は、「当初、私たちは懐疑的でしたが、セーフキャストのデータやデバイスを実際に見てみて、データもデバイスも本当に素晴らしいことが分かりました。技術的問題は、皆さんが思うほど難しいものではないのでは、とも思うようになってきたのです。結局のところ、問題になっている放射性物質は主にセシウムですから!」と言い、私たちの擁護に回ってくれました。

国民に向けて放射線データを提供する日本当局者の取り組みについて、私は辛辣な批判をしたのですが、日本の代表者たちは誰も発言しませんでした。一方で、私たちを招待してくれたIAEA科学事務局長のTony Colgan氏は、日本大使も会議に出席し、セーフキャストの活動に感銘を受けていた、と話してくれました。Tony Colgan氏は日本大使にこう言ったそうです。「セーフキャストの良さを台無しにしてしまうから、政府関連のプロジェクトにセーフキャストを引きずり込まないでくださいね! 」と。

独立した集団がどれだけのことを成し遂げられるのか、そして、なぜ、代替の情報ソースを提供するには、なぜ我々のような政府から独立して活動する人間が必要なのか、ということに対する IAEA会員の思い込みを打ち消すことができたのではないかと思っています。このことが今回の会議の公的な報告書にも反映され、そしてIAEA災害対策ガイドラインの改訂版にも影響を与えるものと信じています。

(翻訳:Kohei Watanabe, Akiko Hemmi)
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The gift shop is unintentionally ironic.

[ギフトショップで見かけた「平和のための原子力」の文字が入った赤ちゃん用のよだれ掛け。意図しないところで皮肉になっています。]

 

About the Author

azby

Azby Brownは、Safecastのリードリサーチアであり、Safecast Reportの主要著者です。デザイン、建築、環境の分野で広く出版された権威である彼は、30年以上日本に住んでおり、2003年にKIT Future Design Instituteを設立しました。2011年夏からSafecastに参加し、国際専門家会議で頻繁にグループを代表しています。