坪倉正治医師、南相馬で住民の内部被ばくの検査から意外な事実が浮き彫りに

In ニュース by steverife

坪倉先生 & 田中
坪倉先生と筆者、東京大学にて(2012年8月 アズビー・ブラウン撮影)

私は、3.11の福島原発事故の後、猫の目のように変わる情報や、幾多と流れる情報に右往左往し、基準値がわからずにいました。 セーフキャストのボランティアをしていて良かったことには、こうした基準の不明な情報を自分なりにでも判断できる基準をセーフキャストのメンバーやセーフキャストが計測した空間放射線量から教えてもらったことです。

今回の事故では、チェルノブイリが頻繁に引き合いに出されます。チェルノブイリの10年後、20年後を見て、今の福島の未来を推測しようというのはよく理解できます。 しかし、実はチェルノブイリと福島の原発事故の間には大きな違いもたくさんあります。

旧ソ連政権の下にあった当時のチェルノブイリや周辺地域では、事故直後には何も知らされず、長らくその土地でできた野菜やその土地で絞った牛乳を飲んでいたといいます。その点からみると、今回の福島は、インターネットの影響もあり、多くの人が少しでも早く、正確な情報を得ようと機敏に行動し、早い段階で食べ物への汚染を懸念し、汚染度の高い食べ物を避けるように配慮したといえるのではないでしょうか。これは、チェルノブイリ事故のその後とは異なる事情です。

事故後1年が経った頃から、今回の人間の健康に関する被害がいかほどのものなのか、その目安が地元の研究者や医療関係者達から少しずつ明らかになってきています。

東京大学、医科学研究所の坪倉正治先生は、昨年2011年7月から南相馬市立総合病院で南相馬と近隣住民、郡山の市民病院で、WBC(Whole Body Counter:ホール・ボディ・カウンター)を使って内部被ばく量をこれまで2万件以上計測しています。ちなみに南相馬市は地方自治体として初めてWBCを購入した市です。

[坪倉先生のブログ]

8月某日、セーフキャストのアズビー・ブラウンさんと一緒に坪倉先生にお会いしてお話を聞きました。坪倉先生には、セーフキャストが南相馬で計測している空間線量値を提供しています。坪倉先生の研究結果に賛同したセーフキャストのメンバーが、WBC測定の分析などに役立ててもらえればと思ったからです。

坪倉先生と、東京大学の早野龍五先生は、共同でWBCの測定と分析をしています。その結果、南相馬で測定した約9500人のうち、数人を除いた全員の体内におけるセシウム137の量が100ベクレル/kgを大きく下回るという結果が出ました。これは測定した医療関係者からも驚きをもって受け入れられたそうです。

坪倉先生は、数値の低かった理由に今の日本の流通状態をあげます。
「地元の人が食べ物には特に気を使い、放射線の測定をしてから流通に出回るものを選んでいたことが大きかったのではないかと思います。私達のアンケートによると、3000人のうち、約9割がスーパーマーケットで食料品を買い、約7割の人が産地を気にしていました。しかし産地を気にしていた人もそうでない人もWBCの数値にはそれほど差が出ていないのです」

一方、わずかですが高い内部被ばく量の人もいます。今年7月、坪倉先生が行った測定では、4名の高齢者の方から1万ベクレルを超える数値、そのうち1人は、2万ベクレルを超えた数値が出ました。この原因について、坪倉先生はこう分析します。

「この方たちは、自分の土地で育てた野菜を食べていたこと、特に浪江町から持ってきたシイタケの原木から成ったキノコ類を食べていたということです」

原因がわかると防ぐこともできるので、この分析は有益なものだと思います。しかし、実際のところ、このように庭に自生したものを食べている人は、地元にはまだまだ多いと懸念されています。

また、WBCによる測定検査は市民の自主的な希望によって行われているので、自主的に検査を受けようとしない層の掘り起こしが、今後の課題になると坪倉先生は考えています。検査をした住民の99%以上の被ばく量が基準値以下という結果は出ていますが、坪倉先生は、「現段階では、私達の結果は低く見積もっている」と言います。

内部被ばくと外部被ばく 内部被ばくは平田も南相馬も同じ

内部被ばくは食べ物で起こりますが、福島県内には空間線量の高いところもまだたくさんあります。これは外部被ばくのリスクを増やします。現在でも除染作業が進んでいる最中ですが、依然外部被ばくのリスクにさらされている地域もあるのが現状です。空間線量の差は簡単に埋めることができません。

これについて、坪倉先生はこう話します。「確かに、空間線量の高い地域もありますが、外部被ばくの場合、数ミリ程度の差で明らかな健康被害の差が指摘されたことはありません。郡山のホットスポットでは年間の空間線量が2~3ミリシーベルト。これが低いか高いかの議論は別として、じゃあ過去に基準値だった1ミリ以下なら可能性は0なのかと言われれば、そういうわけでもない。まだ解明されていない部分は多いのです」

これからもWBCなど、測定や検査は引き続き必要ですが、現段階で内部被ばくの実態がある程度見えてきました。前述の内部被ばくで2万ベクレルを超えた人でも、健康に影響のない程度だと坪倉先生は言います。とはいえ、その人の持つ免疫力も関係するでしょうし、手放しに「問題ない」と言っているわけではありません。そしてこのことは、地元の医療従事者も理解していることと思います。

子供の被ばくはほぼ把握済み

坪倉先生のチームでは、これまでに、いわき市、相馬市、南相馬、平田地区で子供6000人にWBCによる内部被ばくの測定をしました。親御さんの心配もあり、この地域に住む子供の内部被ばく測定の多くをカバーしています。(一番多い南相馬市で50%強です。)

6人から基準値以上の値が出ています。6000人に対して6人というのは全体の0.1%で、この6人のうち3人は兄弟です。基本的には食事が原因に挙げられるでしょうが、それ以外にもあるかもしれないそうです。

子供の線量について、坪倉先生はこう分析します。 「子供は大人に比べて新陳代謝が活発で、放射性物質の体内半減期が大人の約半分ということがわかっています。ですから、子供の場合は例え放射性物質が体内に入ったとしても、

排出されるのも早いです」 しかし、子供の活動範囲は大人とは違い、子供は外に出て泥遊びをしたり、転げまわったりします。地面をさわった手を口に突っ込んだりすることを考えると、内部被ばくのリスクはないのか、という疑問も残ります。

「もちろん、そのリスクがゼロとは言いません。私達もそのことは注意していて親御さんたちに子供の手洗いには気をつけてもらうようお願いしていますし、子供が遊ぶところは除染しておいてほしい。しかし、内部被ばくの最大の原因は食べ物です。お肉や野菜を100グラム食べることはあっても、砂を100グラム食べることはそうはないでしょう。外で除染活動をする作業員たちは必ずWBCで内部被ばくの検査を受けますが、これまで数値が一般の大人に比べて爆発的に高かったことはありません。さらに、子供の代謝が大人の2倍以上の早さだということも、子供のメリットです。子供の代謝が早いことは、以前から分かっていましたが、今回測定をして改めて確認されたそうです」(坪倉先生)

ただ、坪倉先生たちにも不明なのは、ヨウ素による内部被ばくです。周知の通り、ヨウ素の半減期は7日間です。3.11直後からWBCで体内のヨウ素量を計測することができなかったため、甲状腺にどの程度のヨウ素が蓄積されているのかを知ることは、今となってはできないそうです。 実は、地元住民の健康については、別の観点で深刻だと考えられる症状がすでに表れているそうです。それは、糖尿病の増加。仮設住宅や避難所生活での生活から、運動不足になったり、栄養の偏りによってコレステロールが高値の子供が増えているといいます。子供だけではなく大人にもこの傾向が見られるのが現在の福島県内における実情だそうです。

(文責:田中響子)